上が腐れば下も腐る

「何かある、きっと何かある」と軍曹は拳を固める。

「休戦のような声をして、敵を水際までひきつけておいて、そうしてガンと叩くのかもしれない。きっとそうだ」

私はひそかに、溜息をついた。(中略)敵をだまして・・・こういう考え方は、しかし、思えば日本の作戦に共通のことだった。この一人の下士官の無智陋劣という問題ではない。こういう無智な下士官にまで浸透しているひとつの考え方、そういうことが考えられる。すべてだまし合いだ。政府は国民をだまし、国民はまた政府をだます。軍は政府をだまし、政府は国民をだます、等々。(高見順『敗戦日記』中公文庫、2017年、311頁)

 

政府の欺瞞や詐術を看過・容認する者が、同様に詭弁を弄するようになることは、敗戦から半世紀以上経った今でも変わらない。まさに戦前に戻ったとも言えるし、そのように国民の心性を堕落させたことこそ、「日本を取り戻す」結果と言えるのだろう